" 皇子山球場は緊張感に満ち溢れていた。不思議なもので、球場に金属バットの高い音が響くと、球場は明るい熱狂に包まれるが、ボールがミットに収まる独特の皮の音が響き続けると、球場には緊張が生まれるのだ。
ストライック! アウトォ!!
ストライイィィク!! アウッ!
ストライイイィィィィク!!!
打球の音が響かない。両投手ともバットにかすらせもしないのだ。白烏と霧隠の投げ合いに、各打者のバットは無力だった。
甲賀ベンチと滋賀学院ベンチ、それに観客の誰もが、次の1点が勝負を分かつと感じていた。
「いやあ、それにしてもこれ、どっちもプロのピッチャーやわな」
「普通じゃないわ。滋賀学院の方なんてボール見えへんねんもん」
確かに、霧隠才雲のピッチングは圧巻であった。
五回、厳しいとは分かりつつも、甲賀にとってはひとつの指針ができると考えていた。桐葉とともに甲賀の打撃のキーマン、藤田に打席が回るからだ。
白烏が手も足も出ずに三振を喫し、藤田が極端にバットを短く持って打席に向かった。タイミングは打席に立つまで分からないものの、ある程度早めに始動すれば当てられると藤田は思っていた。なにせ、いくら速いとはいえ、
英語家居 相手の霧隠はストレートしか投げていなさそうなのだ。
藤田がストレートにタイミングを絞る。コンパクトにバットを振ろうと決めていた。が、打席に立ってまざまざと格の違いを見せつけられた。やはり、ボールが全く見えない。バッティングセンスに秀でた藤田でさえ、何もできずに三球三振に倒れたのだった。
四回表の蛇沼から始まり、五回の白烏、藤田、犬走、六回の月掛、桐葉、道河原まで、才雲が投じたボールは21球。
そう、霧隠才雲は甲賀の打者7人を全て三球三振に打ち取ったのだ。桐葉でさえ、僅かにボールが見えるだけで、反応することも許されなかった。"