[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
二人が保健室を出て行ってから、あ。と唯は思出した。 「担任に報告してきますね。本当に大したことじゃなくてよかった…」 雨野がそれに頷く。 そして、椅子から立ち上がろうとした時だった。 「っ!」 「………」 横たわるクロエが、腕を伸ばして唯のシャツの袖をギュッと掴んでいる。 イカナイデ 彼女は何も言わなかったが、揺れる瞳が唯に訴えている。 袖を握る手は微かに振るえてさえいた。 「…わかった、隣にいるから、眠ってろ」 言われて安心したのか、やっと袖から手を放して、唯の方に身体を向けたままクロエはまぶたを閉じた。 それを見ていてた雨野が、あらあらと笑う。 「じゃあ、あたしが坂本には言って来ますね。小日向先生、監視をお願いします♪」 わずかに照れたが、とりあえず頷いた。 「はい。よろしくお願いします」 すっかり静まり返った室内に、眠りに落ちたクロエの小さな寝息だけが聞こえる。 少女が眠れたことで、唯は安堵のため息をついた。 ほんの少しだけ口を開いて、いとけない寝顔を見せるクロエを起こさないように、ごく静かな声で呟いた。 「心配かけやがって…」 クロエの、普段は眉の位置で綺麗に切りそろえられた前髪は、今は少しぱらぱらと乱れている。 躊躇ったが、これもまた起こさないように、そっとそれに触れてみた。 自然に、その手は彼女の頬に滑るように移動する。 体温があることに、なんだかまた安心した。 「ったくあのバカ、生徒の一人や二人が倒れたところで慌てて教師がつとまるかぁー!だって」 雨野の声がして慌ててその手を戻す。 「あ、ごめんなさい、姫園さん眠ってる?起こしちゃうわね…」 小声に変えて雨野が苦笑したので、唯も眉をひそめて微笑んだ。 それから雨野は、はい、と唯に先程クロエに与えたのと同じ、栄養ドリンクを手渡してきた。 「はい?」 「さっきの小日向先生、姫園さんより顔色悪かったわよー?」 どうも、と小瓶をありがたく受け取り、今度は失笑するしかなかった。 |